◆豆知識 ★こぼれ話 (最新の記事)
100%の金のみにて薄くたたき延ばすことは技術的に困難です。そこで若干の銀や銅を混ぜることにより |
金(Au) | 銀(Ag) | 銅(Cu) | |
五毛色 | 98.92% | 0.49% | 0.59% |
一号色 | 97.65% | 1.35% | 0.97% |
二号色 | 96.72% | 2.60% | 0.67% |
三号色 | 95.79% | 3.53% | 0.67% |
四号色 | 94.43% | 4.90% | 0.66% |
三歩色 | 75.53% | 24.46% |
白金(プラチナ) | 白金(Pt)99.7%以上 |
通常プロパー品としては一号金、四号金、三歩色です。 |
*** 純金と本金の違いは? *** |
上記一覧表に示すように本金箔というものは100%金のみでは作られていません。その用途や目的により 作り分けられているのです。ある意味手が掛かっているのです。 通常純金というと99.99%(フォーナイン)の表示のものが貴重とされていますが、金箔を使う伝統的製品に おいてはかえって扱うことのできないものになるのです。 ポリエステルフィルムに金を蒸着する場合は他の物質を混ぜない方がいいのです。各々の沸点が違うため 技術的に難しくなるからです。では純度の高い貴重なのか というとそうとも言えません。蒸着というのは被膜を構成するだけなので金の量は製品そのものには多く使わ れていません。(蒸着作業には実際の三倍以上の金を必要とするようです) 純度の低い三歩色などは市場性も少なく、手間がかかっているといっても過言ではありません。市場では 四号金がもっともポピュラーなものとされているようです。 |
金銀糸はさまざまな単位で取り扱われています。もっとも有名な京都西陣織の地域では長さで販売され ています。現在はコーンに巻いているものが主流です。5.000m、6.000m、10.000m、20.000mなどが多く 作られています。 本金糸が主流であった時代は一束(100m)が最低の単位でした。さらにその一束(100m)を10分割 (10m)単位で取り分けられるようにして、必要な分だけを販売される工夫がされていました。 銀蒸着製品が増えてきて1000m、2000mの綛(カセ)が作られるようになりました。綛は製品の仕上がり 具合を検品するのには適しています。また不良部分を摘出して再仕上げすることも可能です。 西陣地域が最盛期を迎える頃には多量の金銀糸が必要とされ、効率性の追求によりコーンアップした ものが要求されるようになりました。金銀糸を繰る時間、手間を省くためです。金銀糸の製造現場で直接 コーンアップしたものは、丁寧な検品を通さずに製品化されることもありました。 和装地域以外では重さで取り扱われています。特に輸出製品はグラムやポンドが用いられています。 (長さの単位の場合もあります。輸出税関実績など統計を取るときにはトン単位で表示されます。) |
*** 色によって重さがかわる *** |
銀蒸着製品では銀と金では重さが変化します。金着色加工をするため、その染料の分が重くなるのです。 通常金着色には多量の黄色とほんの少しの赤色の染料を使います。淡く赤味の色から 濃く黄味の色になるほど重くなっていきます。芯糸においても白と黄では重さが変化します。 |
110/ナイロン黄 | 227g/8.200m | 114g/4.100m | 250g/9.000m | 500g/18.000m |
110/ナイロン白 | 227g/8.600m | 114g/4.300m | 250g/9.400m | 500g/18.800m |
金銀糸の太さのサイズを表現するのに「掛」と「分」を用います。「掛」は一束(そく=長さ)一匁(もんめ =重さ)が一掛です。一束とは糸枠・四尺二寸(1.27m)百回転させて仕上げさせたものです。 一匁は尺貫法で、およそ3.75gになります。 ですから、およそ127mで3.75gのものが一掛です。以下127mで7.5gのものが二掛となります。これは 伝統的な技法による製品、例えば本金糸・本銀糸の時代に定められた基準です。1000m当たり約29.5g になります。現在でも、一掛/1.000m(100d~120d)は28g~32g程度ですから、おおよそその基準に 適合しています。 ポリエステルフィルムの製品ができるようになり、より細い金銀糸を作ることが可能になりました。芯糸 に化学繊維を使い、織物の縦糸にも使えるようになりました。一掛よりもさらに細いものは「分」(ふん)と いう単位で表現しています。現在作られているものでは二分、三分、五分、八分等です。 ただし太さの表示に一定の規格は存在しません。業者によって様々な表示をしているのが現状です。四 分、六分、七分等の表示も存在します。(しかしながら九分と呼ばれるものは聞いたことがありません) |
*** 九掛と十九掛 *** |
現在刺繍用に作られているものでは二十掛ぐらいまであります。当社では一掛から十掛を作っていました。 しかし不思議なことに九掛はありません。九という発声のなかに苦という語呂合いがあるので忌み嫌われた のではと想像します。 |
★★★ 芯糸の無い金糸 ~(太さの基準がない金糸)~ ★★★ |
平成3年中頃にあるお得意先の社長から、もっと軽い金糸が出来ないのかという提案がありました。 金糸の芯糸に使われているレーヨンはその重量の約50%以上を占めます。絹・ピューロン・アクリル等 いろいろ試して見ても各々の差はほんの数%に過ぎず、全体から見ても、2~3%の差しか出せません でした。 その時究極の選択として芯糸を無くせば軽くなることを思いつきました。当初は得意先の主要商品で ある新マガイを使って試作品を作り始めました。しかしながら箔の切れることを考慮した為、撚り下の切 り数が55切になり、価格が従来の一掛より高くなってしまいました。また撚りの不具合も多く出て商品化 には至りませんでした。 その後ソフト紛に移行して試作品作りに入りました。以外に早く商品化することが出来たのですが問題 もありました。ひっくり返り(裏撚り)が非常に多く、一綛を検品して不具合部分を抽出するのに10分以上 かかったこともありました。あれこれ研究し完全な状態になるのに約1年半を費やしました。 当初実用新案の登録を考えていたのですが、西陣において登録は発表と同じようなもの、すぐに真似 をされることを懸念して特定のお得意先にのみ秘密裏に販売をしていました。 その後他の業者さんから実用新案の申請をされていることを知り少しあわてたのですが、申請以前に すでに製造販売をしていた事を証明する資料があり当社の販売においては実用新案に抵触するもので はないとの返答を頂きました。 実用新案は認可され、類似の商品をその他の業者さんが作ることを規制されたのですが、案の定、手 を変え品を変え類似の商品が作られています。中にはまったく同じ商品でも堂々と販売をされていること もあります。 ~(太さの基準がない金糸)~と書き加えましたが、箔のみで撚り上がった金糸はコヨリ状であり中は 空洞になっています。箔の切り幅で太さに差が出てきますが、織物の打ち込み具合によっては箔が潰れ、 以外に様々な状況に対応してくれます。また基準以下の細い芯糸を中に入れることにより経糸としても使 用できます。 |
四、金銀「箔」の太さ(幅)についての表示は |
平箔(両面箔・引箔)の切り幅は「切り」という言葉で表現します。 金銀糸の業界においては通常「〇〇切り」と表現して取引を行います。これは曲尺(かねじゃく)一寸 (3.03cm)巾のものを何本に切るかと意味になります。おおよその換算表を示します。 |
切り幅(本数) | 曲(カネ)尺 | mm(ミリ) |
200切 | 0.005 | 0.15 |
150切 | 0.0066 | 0.2 |
120切 | 0.0084 | 0.254 |
100切 | 0.01 | 0.3 |
90切 | 0.011 | 0.337 |
70切 | 0.0143 | 0.433 |
50切 | 0.02 | 0.6 |
30切 | 0.033 | 1.0 |
*** なぜ様々な太さの金糸や箔が必要なのか *** |
金銀糸・平箔を多く使用する西陣の織物には様々な組織のものがあります。その意匠性を追求し図柄を 表現するために、経(タテ)糸と緯(ヨコ)糸を増やしていくことがあります。増やしていくことでより緻密で細 かい表現の織物ができるのです。 経糸は通常400本ぐらいから1800本ぐらいまでありますが、それに応じて緯糸も様々な太さのものが必要 になるのです。 経糸と緯糸で作る織物の組織は階段状になります。細かくなることでより直線に見えますし、曲線の表現 もより丸みをだすことができるのです。 (注・必ずしも細かな織物が高級であるとはいえませんが、多くの糸を使って織るにはそれだけの手間と 時間がかかります) |
*** 丸撚りに使う箔の切数 *** |
弊社では一掛の場合75切(芯糸=100d)でスリットしています。きらら撚りでは60切(120d)、二掛では55 切、(200d)、四掛では38切(600d)としています。 弊社の撚糸機では加工できないのですが、五分紙ナシで90切(芯糸=70d)、三分紙ナシでは110切(50d) だと聞いています。 |
*** 佐賀錦の箔 *** |
佐賀錦は金銀の箔糸を経糸(タテイト)に用いた織物です。江戸時代いまの佐賀鹿島藩で発展したもの を西陣織の帯地に応用した織物です。 和紙の箔が主だった時代は引箔と同様に片面のみのものが用いられ、箔の切幅も50切前後だったと思 われます。 ポリエステルフィルムになると強度が増し細く切っても、経糸として使えるようになりました。今では100切 のものもあります。また織機にも対応するように両面箔になってきました。 初期の頃は両面箔といってもほとんどが金銀の無地ものばかりでした。その後印刷技術の発展に伴い 両面でも表と裏がピッタリと合う柄物が出来るようになりました。 通常佐賀錦というと菱や鞘方、亀甲といった地紋入りのものが思い浮かびます。これは箔を経糸にした 場合どうしてもタテざしという現象が出やすいためです。地紋を入れることによりタテざしを押さえる効果が あるからです。 |
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五、金銀糸の撚りの方向は |
通常撚糸する場合は必ず撚りの方向があります。撚糸の業界では「S」と「Z」という言葉で表現します。 「S」は右撚り、「Z」は左撚りとも言います。各々の文字の中央部分がどちらから斜めになっているかに よっての表現なのです。金銀糸は通常はZ(左)撚りです。生糸はS(右)撚りになります。 |
*** 二本撚り *** |
金銀糸を二本撚りにする場合があります。このとき撚りの方向はS(右)撚りにします。撚ったものは 必ず元の形に戻ろうとする力が働きます。金銀糸そのものもZ(左)撚りが入っているため戻ろうとする 力が働いています。 金銀糸の撚りが戻ろうとすると、二本に合せた撚糸が戻ることを防ぐ働きをします。二本に合せた撚 りが戻ろうとすると金銀糸の撚糸の力がそれを防ぎます。元の撚りと、後から加えた撚りがお互いの力 を相殺して安定するのです。 |
*** 杢糸 *** |
金銀糸商の取り扱いで杢糸というものがあります。生糸と金銀糸を合わせて生地に織り込んでいくの です。この場合、生糸の撚糸回数の方が多いので金銀糸の撚りが戻ってしまうことがあります。 お客様から生地に入れる杢糸の加工依頼があった場合は生糸を逆(Z/左)撚りにしていただくことを お奨めします。その方が安定した撚りになります。また生地自体むっくりと仕上がります。 生糸の撚糸方向を変換することは容易です。また金銀糸においてもフライヤーを使って撚る高速撚糸 機は比較的容易に変換出来ますが、錘(つむ)を使って撚糸する低速撚糸機では錘先のカットを全て 逆に替えなければならないので、不可能といっても過言ではありません |
*** 二重撚り *** |
以前にお祭の掛物の修復の依頼を受けられた業者様から金糸の問い合わせがありました。変に光沢と 重みがあり手にとってみますと、撚りが二重になっていました。それも下撚りと上撚りの逆にしてあるのです。 織物ではなく凹凸のある掛額のようなものでした。金糸の撚り口が割れてもその隙間から下の金箔が見 えてくるようにしてあったのです。当然撚りの方向は上と下で別方向にしてありました。 先人の知恵とこだわりは本当にすばらしいものです。効率を追い求める現代では考えにくい金糸でした。 |
*** 縦継ぎでトラブル *** |
以前、正絹から金糸に縦継ぎをされたとき、金糸の撚りが緩んでしまい難物の帯地ができてしまいまし た。撚りの方向が違っていた為、正絹の強燃がまさってしまったのです。 このような場合は少しもったいないのですが、縦糸を何mかおくってから製織することが望まれます。 |
*** 杢糸でトラブル *** |
これもかなり以前に起こった実際の話ですが、三分の金糸と21中の4双の糸を合わせて杢糸を作り、フ クサを織られていたのですが、三分の金糸の撚り方向が知らないまま逆方向になっていたのです。 織り上がった生地では収縮が起こり、生糸のほうが浮き上がってしまい難物ができてしまいました。 |
六、金銀糸の芯糸について |
化学繊維が出現するまでは絹糸が主に使用されていたと思われます。絹糸には当然撚りが加えられま す。先の項で説明しましたように、右(S)の片方撚りが適しています。モロ撚りの糸を使いますと金銀糸の 艶が損なわれやすくなります。 化学繊維はビスコース(長繊維)なので撚糸がスムーズになり、綺麗な光沢を作ることが出来ます。現在 主に使われている繊維はレーヨンになります。その他目的に応じてナイロン、キュプラ、ピューロン、綿、ス フ、絹、紙等があります。 |
*** これはあくまで当社においての使い分けです *** |
通常はレーヨン芯を使います。 ナイロン芯は織物の縦糸に使う場合や、ミシン刺繍に使う時などに適しています。 キュプラ芯は収縮に強く、織物の地通しに使うとシカミにくくなると思います。 ピューロン芯は非常に強く、収縮も少ないので、細かい織物(横の多く入る)に適しています。 綿芯は短繊維なので製織後スポットライトの熱等を浴びてもシカミにくくなります。 |
*** ナイロン芯について etc *** |
織物の縦糸に金銀糸を使う場合は主にナイロン芯を使います。機にかける前に金銀糸を整経しなけれ ばいけません。5000mなり10000mのものを必要な本数に、また長さにするのです。 この整経時に出きるだけ低速でゆっくりと作業をしなければナイロン芯は伸びてしまいます。伸びて整経 されたものは製織後、縮んできます。また歩きといって必要な縦糸(例えば600本を50本でなら12回・30本 なら20回)で作ります。この本数でテンションが変わるため縦サシが出やすくなります。 当社の工場でナイロン芯を繰る場合は、できるだけ低速で、また金属枠を使用します。木製の枠を使用 して蒸気・電熱のセットにかけると収縮の強さで木製の枠が歪んでしまいます。 刺繍用などで海外へ手荷物として持ち出す場合などは綛にします。、コーンよりも綛(カセ)の方が一度 にたくさん持ち出すことが出来るからです。また手刺繍などで使用する場合は再セットされた綛の方が扱 い易く、ハサミで綛をカットして作業されたようです。、 |
*** 残留硫黄分について *** |
もっとも多く用いられているレーヨンですが、これは木材パルプを主に使って製造されているため、残留 硫黄分があります。弊社では後染め柔軟加工を施しているため、かなり軽減されますが完全に除去する ことはません。 現在日本ではレーヨンのメーカーがなくなりました。製造工程での有害物質があることや、、針葉樹が使 われ採算コストに見合わなくなったのです。 現在は 主に中国からの輸入に依存しています。ただし金銀糸のレーヨンは日本のメーカーが技術指導 していて、高品質のものを使用しています。 キュプラは綿リンターを主に使っているため残留硫黄分はほぼなくなります。ただしレーヨンほど柔軟さ が出て来ません。 |
現在主に使われているのはポリエステルフィルムに銀もしくはアルミニウムを蒸着したものです。一般的 にはポリエステルフィルムに銀(アルミ)を蒸着します。そして蒸着した銀面に白コーティングをしたり、紙を 貼ったりして銀(アルミ)が化学変化が起こりにくいようにします。金の着色はフィルムの反対側にします。 蒸着した銀の光沢を着色した色を通して見るため金色に見えます。これがオーバー着色です。 もう一つの方法としてアンダー着色というものがあります。あらかじめポリエステルフィルムに金着色を施 しておきます。その着色面に銀蒸着をするのです。その後銀蒸着面に白コーティングなり、紙を貼るなりし ます。 フィルムと紙の間に銀も着色層も挟んでしまいます。外的な要因による化学変化が起き難くなります。織 物の経糸に使用する時や、ミシン刺繍など表面が磨耗し易い時にはアンダー着色が重宝されます。 |
*** 銀蒸着について *** |
昭和30年過ぎに開発された技術です。それまでは対象物に一枚一枚打ち延ばした箔を貼る事によっ て金糸金箔がつくられていました。蒸着とは金属をルツボに入れて高温で沸騰させます。 沸騰した金属は蒸気となり空中に飛散します。それを対象物に密着させるのです。ただしこれは常温で は困難です。蒸着工程時に作業環境を真空にするのです。真空にすることによって金属の沸点が下がり、 作業を容易にします。高い山などでお水を沸かす場合時100度にならなくても沸騰するのと同じ理屈です。 真空蒸着には高度な技術が必要です。世界中で金銀糸は作られていますが、この蒸着技術は日本の 専売特許といっても過言ではありません。 当時の官民の協力によって実現された画期的な技術開発でした。当初は輸入された海外製のポリエス テルフィルムを使っていましたが、やがて日本でも優れたフィルムをつくことができるようになりました。 その後は和紙の上にも蒸着することが可能になりました。 |
*** 本金色という着色 *** |
銀をベースにした製品は透明感があり綺麗に見えます。本金糸や本金箔を作るときには接着剤として 漆を用います。すると漆の持つ濃い茶色が箔を通して感じられます。また細く裁断するとその裁断面から 漆の色が見えます。 そこで当社では銀ベースの製品に工夫を加え、着色時に青味の汚し染料をいれて本金のような色を感 じられる製品を作っています。 また少しでも本金のような雰囲気をかもし出すように、製造の規格や方法も出きるだけ同様にして作っ ています。 |
*** カゼイン着色と樹脂着色 *** |
ポリエステルフィルムを使うソフトタイプの着色は樹脂着色です。高温で焼き付けるため変色も少なく、 経時変化も出にくく長期の保存に適しています。 和紙をベースにした新マガイタイプの製品にはカゼイン着色を用いる事があります。カゼインは日光 堅牢度に弱く丁寧に扱わないと退色しやすい欠点があります。しかしながら透明感に優れ、織物や刺繍 の意匠性を追求すると捨てがたい高級感をかもし出します。和紙製品にとっては必要な着色方法です。 (*カゼインは牛乳から取れるたんぱく質で、さまざまな製品の安定化剤や塗料等に用いられています) |
製品を検査する時には、太陽光の下で行います。蛍光灯では光が乱反射して見にくいですし、周波数 の関係で目が非常に疲れてしまいます。 日照時間が少ない冬場のお天気の良くない日は検品作業がほとんど出来ません。また、午前と午後 、夕方では色が違って見えます。製品の色あわせをする場合は絶対に太陽光の下で、特に午前中に行 います。 蛍光灯には様々な種類のものがあります。その種類によって色の見え方が変化してしまうのです。色 の配色をされている方はその点を留意しなければなりません。 これはお得意先から聞いた話ですが、前売りのデパートから色がボケて見えるから、修正をしてほし いとの要請があり、調べていくうちに蛍光灯の違いによって引き出されたことが判ったそうです。 |
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金銀糸・平箔に用いられるポリエステルフィルムは#2、#4、#6、#9、#12#16の厚みのもので す。#2が一番薄く番号が大きくなるにつれて分厚くなっていきます。通常#9、#12が主に用いられま す。 金糸にする場合#9の時は裏に紙を貼ります。(芯糸は100デーニルか120デニールで一掛です。) #12の場合は紙を貼らず白コート着色になります。(芯糸は150デニールで一掛になります) |
*** 厚さによって紙も変化する *** |
#4や#6は特殊な厚さになります。それらを使う場合は裏打ちの紙は番手に応じて分厚くします。 フィルムが薄くなり、紙が厚くなるほど柔らかな金糸になりますが、その分高価になります。 #2は引箔の表面コートなどに用いられることが多いように思います。 弊社では#9を用いる場合でも厚口の紙を使用しています。紙はフィルムのくせ、例えば折れて曲がり にくい、撚ったものが元に戻ろうとして逆ひねりなる等の動きを緩和してくれます。 フィルムが薄くなり、紙が厚くなるほど高価でしなやかな製品ができます。 |
*** 他産業との競合 *** |
ポリエステルフィルムは石油化学製品です。(現在の衣料の約半分ぐらいはポリエステル繊維です。) 現在社会において欠かすことの出来ないものになっています。特にフロッピーディスクの基盤,タッチパ ネル、加飾フィルム、コーティングフィルム等、身の回りの電子機器や包装資材、生活関連商品に幅広 く取り入れら れています。 金銀糸・平箔に用いられる蒸着用のフィルムは細く裁断して使用するためピンホール(目に見えない ぐらいの穴)の無い高品質のものが求められますが需要としては多くありません。他産業で逼迫すると 後回しにされることもあるかもしれません。 原油価格の高騰や、他産業との競合、また和装産業の低迷による需要減少で、今後どのように推移 していくのか心配な部分があります。事実蒸着メーカーの事業廃止も現れてきました。 |
2008年と2009年に東京のジュエリーカレッジの学生さんがたくさん見学にこられました。その時喜 ばれたのが黒漆の金糸でした。我々の業界では黒漆も金銀糸として取り扱ってきましたが、一般の方 にとって金属光沢のないものは金銀糸ではないという感覚らしいです。 我々の業界での感覚としては、金銀糸と同じ形状で作られたものは金銀糸の範囲に入れてしまいます。 黒漆はもちろん色漆、色ラッカー、透明のフィルム、色和紙等、箔の状態のものを何かに巻きつけたり、 撚ったものはすべて金銀糸です。 光っていないのなら絹糸を織り込めば同じではないのかと思われるでしょうが、箔を撚ったものはボリ ュームがあり、絹糸では出せない力強さがあるのです。 またなぜ漆を使うのか、恐らく諸説あるとおもうのですが、漆には腐敗防止や防虫の効果があります。 さらに我々の業界では本金箔の接着剤としても利用してきました。化学染料で塗られたものよりも経年 変化が少なく、古来より漆器や家具、さらには古墳時代の棺に使われてきたことからも理解できるので はないでしょうか。 |
*** 白漆の金糸・箔は作れない *** |
ご存知のように漆は漆の木から採取します。採取された樹液は濃い茶色をしています。この樹液に顔 料を混ぜて色を作るのですから、白い顔料を混ぜても茶色が淡くなるだけで当然白色にはなりません。 織物の中にどうしても白い金糸が必要である。そこでその代替として用いられたのがカシューです。名 前のとおりカシューナッツの実から採れる漆に似た成分をもつ合成樹脂塗料です。白色の金糸や金箔 で漆と言っているのはカシュー漆です。 |
*** 色漆の色あわせは難しい *** |
本漆の特性として空気中の水蒸気が持つ酸素と融合して硬化するという作用があります。漆を使って本 金箔を貼ったものや、色漆を塗り上げたものは一定期間ムロの中に入れて硬化させます。(金箔業者 や漆を扱う業者さんの家や作業場には湿気をこもらせるムロがあったり、床下を掘っていたりします。) 顔料と合せた色漆の色の出来具合を見るのには必ずサンプリングが必要です。出来上がったものを 手で和紙に塗り、何日かして硬化してから判断するのです。毎回サンプリングしたものを保存しておきま す。 しかしながら保存したサンプルも色が乾燥進行していくので色が合っているのか判りにくいのです。 また本着色段階では、出来ている着色顔料を希釈して使用するため希釈の度合いによっても出来上が りの色が変わってしまうのです。 弊社の得意先では漆の乾いた色を好まれました。当初どうしても上手くいかなかったのですが、ある 時下地の和紙の目止めについて工夫を入れてみました。初期の頃は目止めに柿渋を塗っていたので すが、柿渋そのものも濃い茶色であり、黒光りする作用があります。そこで目止めにカゼインを使うこと にしました。 (*カゼインは牛乳から取れるたんぱく質で、さまざまな製品の安定化剤や塗料等に用いられています) |
織物や刺繍に金銀糸が用いられる場合その節が問題になります。綺麗に織り上げられた織物に 節が入ると、折角の製品が台無しになってしまいます。一本の帯地に地通しで金銀糸が入るとする と約4500m×2が必要になります。 通常の織り作業で節が入ることを避けることは出来ません。まず金銀糸の業者が作る原材料は 最低1000mです。これをスリッターして製品にする場合約800mになります。 また芯糸もつなぎ合わせなければなりません。最近の高速撚糸では、コーンアップされた芯糸や、 ケーク仕立てのまま使用しますので、その間隔は非常に長いのですが、当社が今も継続している 低速撚糸では木管に巻き替える為あまり長く出来ません。 また綛上げ仕立ては1000mもしくは2000mにしますので節が増えることになります。さらに検品時 に不良部分を切って繋ぎ合わせたりもしますので増える事があっても減ら事はできません。 製織時には杼(ひ)管に巻きかえられるのですが、その時に節を排除するしか仕方がありません。 杼管を交換する都度、端から織る事により、節が織リ込まれることを回避できます。こだわりをもた れている織物業者さまは金銀糸を繰る作業に厳重な注意をされています。 |
*** ツナギ目のない状態で納品 *** |
あるメーカーさんの帯がとても綺麗に織り上げられていて、当社のお得意先メーカーがツナギ目の |
帯地や組みひもに用いられる金銀糸・平箔には品質表示を求められます。表示用語は世界基準で 定められていて、業界のみで通用するような用語は認められません。当然「金銀糸」「金銀箔」という 用語は使うことが出来ません。「スリット糸」という分類に入ってしまうのです。スリット糸という用語に は業界から強い反発がありました。ただし「金属糸」という用語は存在します。 そこで苦肉の策として「金属糸風」とか「金属糸風繊維」ということになっています。ですから構成素 材の「ポリエステル」「レーヨン」「指定外繊維」と表記し各々の%を記して、それらを「金属糸風繊維」 として表示することになりました。 その中で「指定外繊維」というのは「紙」のことです。(紙)とか(和紙)と但し書きを表記するのですが、 紙と和紙の分類で確固としたものはないように思います。製造方法で分けるのか、製品素材で分ける のかが判断できないのです。 金銀糸・平箔に用いられている素材は、麻、楮、三椏、雁皮などまさに手漉き和紙に用いられている ものと同じです。ただし、これらは大型機械による連続漉きによって作られています。機械工程に入る 前の準備段階まではほとんど手作業で行われています。 引箔に用いられる金箔原紙、金糸や両面箔に用いられるマニラ麻を主原料にした裏打ち紙はどの ように分けるのか難しいところです。 |
金銀糸・平箔の製造過程ではフィルムと紙やフィルムとフィルムそして紙と紙などを貼り合わせる 工程があります。この貼り合せる接着剤は素材それぞれの特質や、使用製品の目的により異なっ てきます。 例えば水性接着剤を用いて、後加工で水の中をくぐらせるようなことがあると剥がれてくることが 考えられます。また溶剤系の接着剤を用いたものに溶剤を用いたシールなどを貼っておくとそこから 不具合が起こる可能性があります。 当社で起こった事例ですが、転写箔の引箔で整理加工後に箔が剥がれてくるということがありまし た。原因が転写に用いた接着剤にあるのかそのときの技術不備にあるのか、それとも後の整理加 工にあるのか不明のままでした。最近では部分的なシミ落しではなく、製品そのものを溶剤の中にく ぐらせる方法もあるようです。 その時に感じたことですが、メーカーさん・整理加工業者さん共に技術や溶剤のことを明らかにさ れず独自の研究で行われているということです。何か不具合が生じた時にお互いが責任の転嫁に なってしまいます。 様々な事例にあたり問題を解消して今日に至っているのですが、以前個々の企業に頼っているこ とに変わりはないようです。 |
引箔を当社で作ることはありません。無地の金銀のものや印刷によって出来上がったものをその まま販売することはあります。同じ組合に属していますが、製造に関する工程や製品販売の方法な どは随分違います。 金銀糸・平箔がほぼ規格製品であり、見込み生産であるのに対して引箔は受注生産がほとんどで す。 特に模様箔と呼ばれるものは、図案的な要素が多く個々の織物業者さんのオリジナル的な扱いで あり、引箔業者さんと織物業者さんがあれやこれやと話し合いながら作り上げることがほとんどです。 似たようなものを作って販売することはありません。 載金・日本画・陶芸・漆工芸・七宝・螺鈿細工・ガラス工芸等にヒントを得て、、帯地の図案を効果的 に引き立てるために織組織では表現できない部分を作り上げるのに適しているのです。模様箔は工 芸品的な要素があります。 |
*** 光った箔で発生するトラブル *** |
無地の箔、特に光ったものを販売する時に注意しなければならないことがあります。表面に少しでも 傷や汚れが付いているとそのまま織物に現れて出てきます。検品時不良部分にナイフを入れておき、 裁断加工の時に落ちてしまうようにしておきます。 |
*** 裁断後箔がカール(ねじれて)して製織できなくなるトラブル *** |
引箔の原料は連続漉きされた和紙で500mから1000mあります。ある程度の金箔原紙に裏打ち紙 を貼ってこしを持たせます。幅は約600mmです。この原料を450mmの幅でカットしていきます。縦600 mm横450mmの紙ができます。 問題は原料時縦方向であった紙が製品時には横方向に変わってしまうのです。裏打ち(貼り合せ)の テンションが上手く出来ていないと細く裁断したあとにねじれてしまう現象が起こるのです。 |
*** 箔のツナギ目について *** |
通常一本の帯地を作る場合、特殊な織物、切幅でないときには、4・5枚から5枚の箔を必要とします。 そしてその一枚ずつに番号を付けていきます。また一枚の中にも織り始めから順に番号を付けていく のです。 番号順に織り込んでいくことで模様が途切れることなく続いていくようにします。その為には箔が 切替わる部分(例えば一枚目の最後と二枚目の最初)の色や模様を丁寧に作り上げなくてはなりま せん。 かなり以前には許されていた段目が現在ではとても厳しく判断されるようになってきました。ですから ツナギ目だけでなく、箔の途中で何本かがまとまって切れてしまったりすると当然段目が表れて不良 品となってしまうのです。 |
*** 色あわせの難しさ *** |
模様箔を作る場合、使われる帯地を何本製造するかでその枚数が決まってきます。先ほどの計算 でいくと五本なら23枚か25枚となるわけです。その枚数に応じて染料の調合を行います。調合の分 量は感覚によることがほとんどです。 多量の染料を使えばロスになるし、少なめに作って注文の分量をまかなえなければ非常に困った ことになります。染料そのもののコストの割合は大きくはないようですが、色を合わせるのに係る時間、 手間がとても大きいのです。 また売れ筋の帯地は何年もの間織り続けられることがあります。そのことを考慮して材料の確保、 色や製法のデータの管理などをしていかなければなりません。 |
*** 模様(柄)を扁平に仕上げる *** |
細く裁断された箔は一本ずつ織り込まれていきます。そのとき通常は箔と緯糸が交互に織りこまれ ます。例えば箔に真円の柄を描いた場合、間に糸が織り込まれることによって縦長の楕円形になって しまうのです。 抽象的な模様の場合は問題は少ないのですが、絵画的な箔を作る場合は箔の太さや緯糸の打ち 込みの数(一寸間に)を計算して扁平の比率を決めなければなりません。 |
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